京都ジャズ喫茶妄想回顧録8

|エピソード8|@喫茶P「センチメンタルジャーニー」|   梅雨の雨が終わりの兆しを見せ、いよいよ蝉が朝から鳴き始めた午後、今日もいつも通り店を開けゆっくりとレコードの選盤をしていた。 暑くなりそうな初夏の日差しが大きな窓からギラギラと差し込んでいる。 その時、店の重いドアが開きパナマ帽にジャケット姿の老齢の紳士が入ってきた。 「やってますか?」 2000年代、ジャズ喫茶の客は多くはない。うちも同様に静かな営業だったから店内を見て尋ねたのだろう。 「やってますよ。いらっしゃいませ、どうぞ」...

京都ジャズ喫茶妄想回顧録7

|エピソード7|パラゴン@Bigbeat  1960年代後半、ジャズ喫茶、いやオーディオに魅せられて京都市内の様々なジャズ喫茶に通っていた学生の私は、ある日、友人から聞きつけた烏丸今出川、市場の2階に新しくできたというジャズ喫茶へ行った。 当然、スピーカーに向かって配置された席、今でいう教室/学校スタイル。ジャズ喫茶では、当時、よくある風景だったが、このBig beatは特に、大きなスピーカーの存在感と漂う店の空気感が他と一線を画していた。...

京都ジャズ喫茶妄想回顧録6

|エピソード6|@MAP「ロック喫茶」 学生生活が3年目を迎えた頃、私は当時の彼に連れられて時々ロック喫茶に行っていた。私にとって二人目の彼はロックにハマる音楽少年で、普段は男友達と通うそのロック喫茶へある日を境に時々連れて行ってくれるようになった。 ロックは私の趣味ではない。けれど、音楽の世界に熱中している彼の姿を見るのが好きで「MAP」へ一緒に行く時間は私にとって初めて覚える喜びだった。そんな私の心もようをきっと彼は今も知らない。必然的にロックにも多少の知見を持ち始めた私を「趣味を共有できる人」と感じていた節がある。...

京都ジャズ喫茶妄想回顧録5

|エピソード5|@三角堂「マッチ」 5月の緑眩しい午後、納戸で古い記憶を探していた。確か、透明のよくあるプラスチックの収納ケース。 見つけ出した頃には、窓から傾いた日差しが入ってきていた。 その記憶は、ケースの中に仕舞い込んでいたはずのジャズ喫茶のマッチ。70年代の学生の頃、毎日どこかのジャズ喫茶へ行き、珈琲一杯で散々レコードを聞いた。まだ最新アルバムやレアなアルバムをすぐに聴けることが貴重な時代、情報も少なく、さらにジャズ喫茶のオーディオシステムで聴く臨場感のある音は夢心地だった。...

京都ジャズ喫茶妄想回顧録4

|エピソード4 |@ジャズバーMrika「タイムトリップ」 70年代後半、ジャズ喫茶というよりジャズバーというのが相応しいその店で、しょっちゅう友人Sと飲み明かし、語り明かし、若さの若さたる所以を満喫していた。よく、最終を逃したヘベレケの僕たちに散々ジム・ホールとアート・ファーマーを聴かせて、始発まで夜明かしさせてくれた。 今は、こんなバーがどれだけあるのだろう?...

京都ジャズ喫茶妄想回顧録3

|エピソード3 |@デーゲー「ご祈祷」   京都は出町柳。小さな商店街の西の端に学生たちが「デーゲー」と呼ぶジャズ喫茶が在ったのは、1970年代のこと。ここでは、正確な店名は想像にお任せすることにしよう。 デーゲーは1970年に開店し、80年代のいつまで営業していたかどうか、定かではない。今は、当時デーゲーが2階に店を構えていたビルだけが静かに残っている。...