|エピソード4 |@ジャズバーMrika「タイムトリップ」

70年代後半、ジャズ喫茶というよりジャズバーというのが相応しいその店で、しょっちゅう友人Sと飲み明かし、語り明かし、若さの若さたる所以を満喫していた。よく、最終を逃したヘベレケの僕たちに散々ジム・ホールとアート・ファーマーを聴かせて、始発まで夜明かしさせてくれた。

今は、こんなバーがどれだけあるのだろう?

すでに京都を離れて40年数年。雪深い長野に暮らす間に還暦を迎えたのは数年前。その年、懐かしい友人Sと還暦同窓会と称して、京都で再会することにした。今は、彼も京都在ではなく、二人して青春時代へタイムトリップするかのように京都で待ち合わせしたのである。互いの風采や懐かしい街の変化に時の流れを感じつつも、暫くのうちにすっかり時間の隔たりを忘れてしまった。

僕らの青春時代は、もちろんジャズ喫茶全盛期で、当時、日中はよくジャズ喫茶巡りをしていた。僕らは、同じように日中はジャズ喫茶巡りを敢行したのだが、現存するのはY屋さんだけで寂しい気持ちが胸を打ったのも束の間、夕方になってあの夜明かしをしたジャズバーMrikaの灯りを見つけた時は尋常でない気持ちがこみ上げた。そして、あの頃と同じようにそのバーで二人してボトルを開けた。

店主は変わっていたが、変わらぬMrikaの佇まいが還暦の僕らには優しく、40数年を超えてその夜もジム・ホールとアート・ファーマーのレコードが迎えてくれた。さすがに夜明かしまではしなかったが、数年経った今も、旧友と飲んだ美味しい酒の味、青春時代を共にした場所で飲んだ喜びには言葉にできない想いがある。

また、京都へタイムトリップしにゆこう。

きっと、あのジャズバーが僕らを待っていてくれる。

 

(注)この物語は京都ジャズ喫茶マップ制作にあたり提供されたエピソードを種にした筆者による完全な妄想である。