|エピソード6|@MAP「ロック喫茶」

学生生活が3年目を迎えた頃、私は当時の彼に連れられて時々ロック喫茶に行っていた。私にとって二人目の彼はロックにハマる音楽少年で、普段は男友達と通うそのロック喫茶へある日を境に時々連れて行ってくれるようになった。

ロックは私の趣味ではない。けれど、音楽の世界に熱中している彼の姿を見るのが好きで「MAP」へ一緒に行く時間は私にとって初めて覚える喜びだった。そんな私の心もようをきっと彼は今も知らない。必然的にロックにも多少の知見を持ち始めた私を「趣味を共有できる人」と感じていた節がある。

当時はロック喫茶に女学生の姿は珍しく、随分小さくなって居たのが懐かしい。

その彼がいつからだろうか?時折ジャズを聴くようになり、それは日毎に熱を帯びていった。

あれは一体、どこでどんなきっかけだったのだろう?

唐突にジャズがかっこいいと言いだし

片っ端から聴き始めた。

当時のジャズには、多感で敏感な感性の若者に内なる雷を落とすような衝撃性があったのかも知れない。まるで隕石が飛来したかのような。

時代性なのか彼がジャズに傾倒していていくのと同様に「MAP」でも行く度にジャズレコードがかかることが増えていった。そして、最終的にはジャズしかかからなくなり、

私の居心地はどんどん良くなっていった。

ジャズ全盛期後半だった私たちの学生時代、その「MAP」も私たちの学生生活の終わりと共に人知れず閉店し、私たちも別々の道を歩き始めた。

彼には最後まで言えなかったけれど、本当は、私は、ずっとジャズを聴いていた。

彼と出会う前からずっとジャズが好きだった。

 

(注)この物語は京都ジャズ喫茶マップ制作にあたり提供されたエピソードを種にした筆者による完全な妄想である。